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『齋藤孝のざっくり!世界史』読書感想その2

2014年9月2日 02:55 / カテゴリ:[ ]


前回の記事では、本書でヨーロッパ文明の重要な特徴としてあげられている「加速力」という概念が何を意味しているのかすら未定義のままなので、この概念による分析の妥当性がさっぱり判断できないことを指摘しました。

(前回記事:【読書感想】『齋藤孝のざっくり!世界史』

本書の後半で齋藤孝はマルクス主義に対するカール・ポパーの「反証可能性がない」ので科学ではないという批判を紹介していますが、まさにこのような不明瞭な分析こそ反証不可能であると自覚するべきでしょうね。

このようなふわっとした論述を臆面もなくできるのは、齋藤孝が世界史研究の門外漢だからではないかと思います。専門知識のある人間なら、軽々にこのような曖昧な概念を分析に用いたりはしないからです。

そもそも彼の専攻は教育関係ですし、世界史を研究していたわけではありません。まえがきを読んでも受験勉強で学んだこと以外には特に世界史を専門的に勉強した形跡はありません。

なるほど多くの本を読み知識はあるのかもしれませんが、それにしても上記のような曖昧な議論でお茶を濁す程度のものです。はっきり言えば社会人向けに世界史の本を書く資格があるとは思えないのです。

もちろん私も、すべての本が学者向けの厳密なものである必要はないと思っています。一般の社会人向けならどこかで割り切った記述をする必要もあるでしょう。しかし分析に用いられる概念自体が不明瞭では、誰も納得などしないでしょう。こんなもので納得させられると思うなら、社会人を舐めすぎです。

本書のターゲットは、世界史を暗記物としか考えてこなかった社会人なのだと思います。だからこそ個別の知識を総合するような視点で物事を整序するのが本書のコンセプトなのでしょう。しかし、こんな説明不足の不明瞭な概念で個別知識を総合することなどできません。かえって不満を募らせて興味を減衰させるだけでしょう。

本書のコンセプトからすれば、分析に用いる概念を明確に定義し、その概念を活用してすっぱり割り切った記述をするほうがまだ良かったと思います。「これが分析のつもりなの?」という感想よりも、「そんなに綺麗に割りきれていいの?」という感想の方がまだコンセプトに合致していて好ましいと思います。

つまり、歴史が綺麗に割りきれるように思える分析道具を整えることが一番大事なのであり、そこを疎かにしている本書はこの点で不完全だと思います。

もっとも、こういう大きな問題があるにせよ、普通の人にざっくりとした世界史認識を持つことの重要性を説いたことは素直に評価できます。文庫版は値段も安いですし、ブックオフの100円コーナーで見つけたり図書館で借りられるのであれば、一読してみても面白いかと思います。

【読書感想】『齋藤孝のざっくり!世界史』

2014年9月1日 09:20 / カテゴリ:[ ]


『齋藤孝のざっくり!世界史』という本を図書館で借りてみたのですが、これがコンセプトはともかく色々突っ込みどころ満載で困惑してしまいました。別に個々の事実関係について異論を出したいわけではなく、それ以前の記述の明瞭性に疑問があります。

たとえば齋藤孝は近代化を世界史を動かすパワーの一つとして規定し、同時にそれが現代社会の諸問題を生み出した元凶だとも言っています。

そしてそのような近代化を生み出したヨーロッパとは何かという問いについて、「ヨーロッパの柱とは古代ギリシア・ローマなのです」と特徴付けています。これらは「地中海文明」として一括りにされます。

そして地中海文明の特徴について、次のように述べています。

そうして生み出された地中海文明の特徴は、「加速せずにはいられない」というものでした。地中海文明をまとめあげる形で成立するローマ帝国の、あの止めどない拡大にその特徴はよく現れています。そして私は、ヨーロッパが地中海文明から必然的に受け継いでしまったこの「加速」こそが、近代文明の「痛しかゆし」を生み出しているのだと思うのです。

こういった本書における齋藤孝の主張に対し、私は多くの疑問が出てきました。

たしかにヨーロッパの柱が古代ギリシアとローマにあるのは間違いないところであり、衆目の一致するところだと思います。そこには特に異論がありません。また、これらを地中海文明として一括りにするのも、それほど奇異なものではありません。それどころか、ありふれたまとめ方とさえ言えます。

しかし問題は、「加速」という曖昧なキーワードです。彼によれば「近代化を生み出している」極めて重要な特徴であるにもかかわらず、それが何なのかについては全く定義されておらず、曖昧なままになっています。

何を加速しているのか、速くなっている対象は何なのか、何を受け継いだことで「加速」という特徴が継続したのか、その特徴は何によってもたらされたのか、本当に他の文明には見られない特徴なのか。こういう基本的なことすら述べられていないのです。しかもこの主張に対する根拠も述べられていません。

そもそもローマ帝国の拡大に「加速力」を見出すのなら、別に拡大しなかったギリシアが並置されている理由がよくわかりません。拡大の有無が問題ではないのなら「加速力」とは何なのでしょうか。「加速力」は発現しなかったけどそれを生み出す原因はギリシアも内包しているのだとすれば、その原因とはなにかをある程度明示しなければならないでしょう。

また、ローマ帝国以上に拡大した国家は世界史上他にあります。アレクサンドロス大王のマケドニアやモンゴル帝国の拡大は加速力の発露ではないのでしょうか。すると両者を分かつのは何なのでしょうか。ローマ帝国以外の地中海沿岸の他の国家は加速しなかったのでしょうか。「加速力」は地中海文明の特徴なはずなのにローマだけが拡大した理由は何なのでしょうか。

何らかの要素の差異によってこうした相違が現れるのであれば、「加速力」なんて曖昧な言葉ではなく、その要素を摘示するべきでしょう。この後にもヨーロッパ文明の「加速力」についてしばしば言及されています。分析のために用いられている定規のようなものです。それなのに、その定規がどういうものなのかはっきりと書いてくれないのです。これはあまりに無責任な態度ではないでしょうか。

長くなるのでここで一旦切ります。

竹内洋紹介本など|みすず読書アンケート2014

2014年8月31日 02:06 / カテゴリ:[ ]


例によって『みすず』2014年1月号の読書アンケートから、気になる先生が紹介している本などについて、徒然に文章を書いていきます。

まずは社会学の竹内洋先生です。著作が結構多い方なので、ご存知の人もかなり多いと思います。京都大学教育学部の名誉教授で、専門は教育社会学です。先生の著書の中で有名なのは、これでしょうか。

・竹内洋『日本のメリトクラシー 構造と心性』、東京大学出版会、1995年

でも個人的には、中公新書から出ている書籍の方が印象に残っています。

・同『教養主義の没落 変わりゆくエリート学生文化』、中公新書、中央公論社、2003年
・同『丸山眞男の時代 大学・知識人・ジャーナリズム』、中公新書、中央公論社、2005年

特に『教養主義の没落』は、これまではっきりとしたイメージを持っていなかった「教養主義」なるものについて考えるきっかけになりました。私が想像していた以上にマルクス主義の影響が強かったんですね。

私が幼い頃に社会主義の壮大な実験場だったソビエト連邦が崩壊し、マルクス主義にリアリティーをまったく感じない時代を生きてきたので、こういう時代があったと知識ではわかっていても実感はできなんですよね。なので、一見無関係に見える「教養主義」との関係がとても印象的でした。

さて、そんな竹内洋先生がアンケートで挙げていた本の中で一番気になったのがこちら。

・小坂井敏晶『社会心理学講義 <閉ざされた社会>と<開かれた社会>』、筑摩選書、筑摩書房、2013年

本書は出版当時から話題になっていた本ですし、私も購入検討本としてAmazonのリストに追加していた記憶があります。追加しただけでまだ購入してないんですけどね。

社会心理学の実験はそれ自体がとても興味深く意外な結果を教えてくれますが、そこからさらに人間の自由などの哲学的領域や社会学、政治学的領域にまで踏み込んだ記述をしているのが本書の特徴だそうです。

誤解を恐れずに言えば、狭義の社会心理学にとどまらずに人間理解を追求しようとしているわけです。これはタコツボ化しがちな日本の学者にはほとんどできない試みのように思います。まあ、安易に射程を広げても撃沈するだけなので、学者の側に相当な力量がないと受け入れられなそうですが。

ちなみに、このアンケートで本書を挙げている先生は他にもいました。最優先で読んでおきたい本、かもしれません。

他に気になったのはこちらの本。

・佐藤卓己『物語 岩波書店百年史 2 「教育」の時代』、岩波書店、2013年

現在までに3巻まで出ているようです。調べていませんが全三巻なのかもしれません。

先ほど書いたように竹内洋先生の著書を読んで「教養」なるものに興味を持った人間としては、そこで重要な役割を担ったであろう岩波書店に関心があります。この巻だけじゃなく、他の巻も含めて読み、岩波書店の歴史について少し学んでみようかと思っています。

【気になる本】原田健二朗『ケンブリッジ・プラトン主義 神学と政治の連関』

2014年8月30日 10:20 / カテゴリ:[ ]


最近こちらの本が気になってます。

・原田健二朗『ケンブリッジ・プラトン主義 神学と政治の連関』、創文社、2014年

2014年3月に出たばかりの本で、390ページで定価7000円だから割と高価。まあ創文社の平常通りの価格帯かなと思うし、学術書の価格はだいたいこんなものでしょうね。

著者の原田健二朗先生は慶應義塾大学非常勤講師だそうです。若手研究者なのでしょうか。調べてみたら、本書と同じテーマの「ケンブリッジ・プラトニストにおける神学と政治の連関 理性・自由・参与をめぐるキリスト教的主知主義」という論文で学位請求しているみたいですね。ということは、本書はそれに加筆したものなのかもしれません。

17世紀イングランドのケンブリッジプラトン主義については、私も名前くらいは聞いたことがあります。しかしその具体的な内容どころか、概略さえもほとんど知りません。このテーマに関する日本語で書かれた書籍って何かあるのかという基本的な部分すら知りません。おそらく相当にニッチな分野だと思います。専門家の方に言わせれば違うのかもしれませんが、少なくとも一般向けの本ではほぼ触れられていないはずです。

たしかカッシーラーの著作に何かケンブリッジプラトン主義に関して触れている本があった気もしますが、私は読んでいません。不勉強です。それに、私の記憶が確かなら既に品切れになっているはずです。

そんなわけで、ケンブリッジプラトン主義について知りたいと思ったとき、この本が非常に参考になるのではないかとタイトルだけで推測しています。中身がとても気になりますね。

創文社のホームページに簡単な目次と内容紹介があったので読んでみたのですが、どうやらタイトル通り政治思想史的な観点から書かれた本のようです。哲学的な見どころよりも神学と政治思想との関係についての研究みたいですね。まあ、神学と哲学は紙一重ですけど。

扱われているのは、ベンジャミン・ウィチカット、ヘンリー・モア、ラルフ・カドワース、ジョン・スミスといった思想家みたいです。この辺りの人たちがケンブリッジプラトン主義者ということになるのでしょうか。

本書はこういった人たちの思想とその政治的含意を内在的に研究したものだということです。

正直、とても興味深い研究です。ガチの哲学よりも法学との接点が大きそうですし、彼らの枢要概念には「自由意志」や「自然法」といった法学と密接に関連する概念が含まれています。すると法思想史や法哲学的な興味が湧いてきます。

まあ、この興味関心がどこまで的を射ているのかわかりません。法思想との関連とかまったくの勘違いかもしれませんし。とりあえず事実として私はこの本に興味を持ったので、知的好奇心を満たすために読むのもいいかなと思ってます。

佐々木力紹介本と酒井潔|「みすず」読書アンケート 2014年

2014年8月29日 10:04 / カテゴリ:[ ]


みすず読書アンケート特集2014で、私が個人的に興味を持った人の挙げた本をいくつかピックアップしています。前回のエントリーはこちら。

⇒ 「みすず」の読書アンケート特集 2014年

今回は科学史および科学哲学の専門家である佐々木力先生が挙げた本からです。例によって適当なコメントをしているので、絶対に鵜呑みにしないでください。

ちなみに、佐々木力先生は東大の方ですね。岩波新書から『科学論入門』という本を出しているので、ご存じの方も多いと思います。あとはちくま学芸文庫から『数学史入門 微分積分学の成立』という本も2005年に出されているので、ライトな読者の方でも名前くらいは見たことがあるレベルの方だと思ってます。

・イアン・ハッキング『知の歴史学』、岩波書店、2012年

この本の出版は2012年ですから、2013年に読んだ本というこの特集の条件を考慮すると、佐々木先生は出版後しばらく読んでなかったということなのでしょう。だからどうというわけではないですが。

イアン・ハッキングは分析哲学系の思考とフーコーの考古学を融合させたすごい人というイメージです。『確率の誕生』とか、翻訳が出ていたので購入してしまいました。もっとも、買ったはいいけどまだ読み終わってないですけど。

・酒井潔『ライプニッツのモナド論とその射程』知泉書館、2013年

モナド論の発想がどこまでの射程を持つのか、20年以上にわたって研究してきた著者の研究成果として公刊されたものだそうです。研究の集大成的な著作なのでしょうか。レベルの高い研究書みたいなので、門外漢の私には理解が難しそうです。今のところ買う予定はありませんが、ライプニッツに興味が出てきたら参考にしたいと思います。

扱っているテーマも興味深いのですが、酒井潔先生って日本におけるライプニッツ研究の第一人者なんですか? そのように佐々木力先生がコメントを書いていたので気になりました。

そこで調べてみたところ、どうやら酒井潔という名前の有名人って複数いるんですね。既にお亡くなりになっているエログロナンセンスの方の著名な翻訳家の方しか知りませんでした。ライプニッツやハイデガーを研究しているドイツ語圏哲学の研究者の先生がいらっしゃるんですね。自分の無知が恥ずかしいです。

学習院大学に所属している先生で、清水書院から出ている「人と思想」シリーズでライプニッツの巻を担当なさっているそうです。言われてみれば、私もその本を見かけた記憶があります。著者の名前も見ているはずです。見ていても自分にとって重要だと認識していなければわからない、これスコトーマの原理ですね。気をつけなければ。

今調べてみたところ、人と思想シリーズのライプニッツの巻は、8月29日に同じタイトルと著者でAmazon予約受付中になっています。これは新装版ということでしょうか。それとも改訂版なのかな。出版社のホームページを見ても特に何も書かれていないので、単なる重版の可能性もあるかも。ちょっとよくわかりませんね。

ちなみに酒井潔先生の他の著書としては、下記の本が出版されています。

・酒井潔『世界と自我 ライプニッツ形而上学論攷』、創文社、1987年

ライプニッツの原典にあたり、詳細な分析のもとで彼の諸概念を体系的に位置づけ解釈する試みだそうです。博士論文かなにかでしょうか?

532ページもの大ボリュームで定価8000円ですね。おそらく先生の主著だと思います。創文社にはまだ在庫があるようですが、Amazonではなぜかデータが出てきません。まあ、Amazonだとこういうことはよくあります。

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